バンクーバーに着いて2日目の夜から、物件探しを始めました。
2日目の夜まではバンクーバーの街をヘラヘラフラフラしていたけれど、
ユースホステル(世界中にある安宿。一部屋にベッドが幾つか置いてあり、知らない人と相部屋。)
で同室だった韓国人の女の子に
「私は物件探しに3週間かかった」と脅され、
一気に焦りに襲われたためです。
というか、脅される以前に、ユースホステルは1週間しか押さえておらず、
それ以降は泊まるとこもなければ身寄りもないため、
一刻も早く物件を見つける必要があったのです。
あと5日のうちに見つけなければ薔薇子は家なき子になり、
ゴミ箱からパンかなんか拾って、
周りで見ているカナダ人たちに
「同情するなら金をくれ!」
とか言わなきゃいけなくなるでしょう。
しかし、「同情するなら金をくれ!」と英語で言うこともできないので、
まだ安達祐実の方が、生存能力があると言えますね。
そこで薔薇子はものすごい勢いで
jpcanadaとかいう、ワーホリで来た日本人向けのサイトにいき、
シェアメイト募集
の掲示板にいき、物件を探し始めました。
「多くのメールありがとうございました。住人が決まりましたので募集を締め切らせていただきます。」
とかそんなことが書かれていることも多く、
オンシーズンの今、もしかしたらすごい争奪戦なのではないかと
私はとにかく条件が少しでもあえば、「物件見せてください」とメールを送りました。
とにかく一つでも引っ掛かれば、
と藁にもすがる思いでメールを送りまくっていたら
存外、ほとんどの人から返信があり、
夜遅いにもかかわらず
なんと薔薇子は次の日にアポを3件もとることができました。
さて、一番初めに訪れた物件は、バーナビーというところにあり、
バンクーバーの中心地からは電車を乗り換え、さらにバス、というちょっと遠いところにありました。
しかしその物件がある住宅街は、アメリカのドラマや映画に出てくるような家々が並び、
しかも広々とした公園が近く、その公園では、キンダーガートン(幼稚園)の子供たちが楽しそうに遊んでいて、なんとも爽やかな風景が広がっていました。
なんだか薔薇子の異国暮らしの理想と酷似している気がする、と思い、
薔薇子はその近くの公園で、無邪気な幼児たちを眺めながら、
ユースホステルからかっぱらってきたりんごとベーグルをむしゃむしゃ食べ、
ここでの暮らしに夢を抱き、胸を膨らませていました。
途中、蜂が薔薇子に寄ってきて薔薇子が「ウギャっ」と言い、蜂から逃げたりしていると、
隣りのベンチでランチを食べていた金髪の女性が
「That’s Bee(蜂ね)」
とか言ってきて、薔薇子はおどけた顔をして肩をすくめる、なんてこともしていました。
おかしいですね、広々として爽やかな公園にいると、
こんな出来事もなんだか私が夢見ていた海外生活に近いような気がしてくるのです。
ただ蜂に襲われただけの出来事さえも。
さらに薔薇子がアポを取った女性の名前はジェニーでした。
ジェニーとくれば、リカちゃんジェニーちゃんのジェニーですよね。
金髪で青い目の女性が出てくるにちがいありません。
メールでもずっと英語のやりとりだったし、ジェニーとルームメイトになれば、薔薇子は英語力が上がるに違いありません。
さらにジェニーはきっと週末にどこかのパーティーに薔薇子を仲間たちとともにオープンカーに乗せ、連れて行くでしょう。
パーティに行くオープンカーに似合うのは軽いノリとサングラスだから、
サングラスを買いに行かなくてはな…
と考えていたところで、薔薇子は家のインターホンを押しました。
家に入る前の扉に蜘蛛の巣がかかっていたのがちょっと気になるところでしたが、中では金髪女性が、待っている、そう思い、ドキドキしていると
扉が開きました。
そこに立っていたのは
小さなアジア系のおじさんとおばさんでした。
小さな黒髪ショートのメガネをかけたおばさんが
「ハーイ!アイムジェニー」
と言い、引きつった笑顔で私を迎え入れてくれました。
なんだか薔薇子の思い描いていたジェニーとはちょっと違うな、
というか全然違うな
と思いながら薔薇子は促されるがままに家を見学しました。
具体的に何が嫌っていうのはなかったので、なんだか説明しづらいのですが、
部屋もその夫婦にも
薔薇子は違和感がありました。
決して悪い夫婦ではなさそうなのですが、
何と言えばいいのか
心からの笑顔というよりも、引きつった笑顔を終始しているのです。
一刻もはやく物件を見つける必要があったので、最悪そこでもいいかな
と思ったけれど、
まだ今日見る物件があるし、即決はしたくないな
と思ったので、
「考えさせてください」
と申し出たところ
「あなたの他にもこの部屋に住みたがっている人がいるから、今決めないと部屋がなくなりますよ。
今デポジット(敷金のようなもの。大抵家賃の半分。それを払うと契約が成立する。)を払わないと知りませんよ」
みたいなことを言ってきました。
この夫婦が薔薇子に決めて欲しいと思っている雰囲気がバンバン伝わってきて、
部屋を貸すイコール家賃が手に入る
ということですので、
その夫婦の目には薔薇子がお金にしか見えていないような気がしてならなかったのです。
誰かに取られてしまいますよ
ということで焦らせようとしていたのでしょうが、
薔薇子の心はそれで余計離れてしまいました。
もし夫婦が余裕を見せて
「住んでも住まなくてもどっちでもいいから、よく考えてね!」
とか言いながら余裕を見せてきたら
薔薇子も
住もうかな
と思えるのですが、
ジェニーちゃんの焦りはなんだか受け入れがたいものがありました。
恋愛だって、相手に余裕がなければ、魅力が半減することもありますよね。
相手の下心が見えず、どーんと構えられた方が魅力的ですよね。
恋愛も、人に部屋を貸すのも、余裕を持っていたいものです。
リカちゃんハウスならぬジェニーちゃんハウスから帰る途中に
また、公園を通ったのですが、なんだかさっきの爽やかさがなくなり、青々と茂っていた草木も色あせてしまいました。
蜂に襲われるのも、もうごめんだな、
と思いました。
後に薔薇子はバンクーバーの中心地の目抜き通りにある
プール・サウナ・ジム付きの高層マンションにどういう運命の成り行きか、住むことになります。
今思うと贅沢な暮らしでしたね。
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